数あるブランド牛の中でも、トップクラスの肉質の良さと、安全性に配慮された取り組みが特徴的な「与一和牛」。栃木・大田原市で開かれた、将棋の「第71期ALSOK杯」では、藤井壮太竜王が、昼食に「与一和牛のビーフカレー」を注文されたことがニュースにもなりました。
こちらの記事では、そんな「勝負メシ」としても話題になった与一和牛について、その歴史や、肉質の特徴などについて、紹介していきます。
与一和牛 誕生の地「大田原市」
「銘牛の里」と謳われる、栃木県の北東部にある「大田原市」が、与一和牛誕生の舞台です。松尾芭蕉の名作「奥の細道」と所縁のある土地として有名で、観光資源も多い街です。「与一和牛」は、この大田原市で育った黒毛和牛のうち、「A5ランクの肉」にのみ許される呼称であり、高級国産牛肉として親しまれています。
黒毛和牛について
国内の牛は、大きく分けて「食肉牛」と「乳牛」の2つに分類されます。さらに、「食肉牛」は、「和牛」「交雑種」「乳用種」の3つに分けられ、その中でも「和牛」には4つの種類があり、黒毛和牛もそこに含まれます。
以下に、和牛の4つの種類について、それぞれ解説していきます。
黒毛和種
肉質に優れ、日本人好みの霜降り肉が印象的なのがこちらの種類です。今回取り上げる「黒毛和牛」はこちらに分類され、その中でも大田原市で育ったA5ランクのものだけが「与一和牛」と呼称されます。
古くから飼育されていた牛で、1918年頃から各県で登録が開始されました。現在では、国内で飼育されている和牛の9割以上がこちらの品種になります。
褐毛和種
被毛色が黄褐色から赤褐色の牛で、耐暑性に優れた放牧飼養に適した品種です。別名「あか牛」とも呼ばれ、熊本県や高知県、東北地方や北海道などで主に飼養されています。粗飼料(家畜に給与する飼料)としても利用されています
日本短角種
東北地方の北部を原産とする種類で、濃褐色の被毛が特徴。きめが粗い肉質であり、粗飼料としての利用率が高い品種です。和牛の中では比較的大きな体格をしています。北日本の気候風土に適しており、放牧適性の高さに定評があります。
無角和種
黒褐単色の黒毛和種よりも、より黒味が強い被毛色が特徴です。肉質的には、サシの入った黒毛和種よりも劣ります。消費者の霜降り志向も影響し、現在では、和牛の中で最も飼育頭数の少ない希少な品種となりました。
与一和牛の肉質の特徴
与一和牛は、「A5ランク」の厳選された最高峰の牛肉として扱われており、「公益社団法人 日本食肉格付け協会(JMGA)」の基準に則り、格付け設定が行われています。この基準は、公正な取引を確保するために、国内で統一された内容になっています。最高ランクに位置する与一和牛は、大きく分けて以下のような特徴を持っており、ひとつずつ解説していきます。
「脂肪交雑」が、多く、細やか
肉質を評価する指標の一つである「脂肪交雑」は、牛肉の赤身に網目状に脂肪が入っていることを意味します。つまりは、サシ(霜降り)の入り方のことです。その脂肪交雑の量が多く、かつ細やかであるほどに、等級が高く、良い肉質であることが認められるのです。
脂肪交雑等級(BMS)は1~12のナンバーに分類され、そのうちNo.8~No.12に指定されたものが最も高い等級である5等級となります。
脂肪の色沢と質が良い
B.F.S.(ビーフ・ファット・スタンダード)という基準で評価される、脂肪の色沢と質は、切開面と外面、中面の脂肪の状態を目でみて、7段階にランク分けされます。
ナンバーの小さい(色が白に近い)方が高いランクとされ、与一和牛は脂肪の色と光沢、質ともに優れたものであると認められています。
肉の締まりが良く、きめ細かい
牛肉の締まりときめは、ロースの断面を目視で確認して評価されます。A5ランクに値する与一和牛は、最高等級である「かなり良い」締まりと、「かなり細かい」きめを持つ、最高ランクの牛肉です。
牛肉の色沢が良い
B.C.S(ビーフ・カラー・スタンダード)という基準を元に、7段階で評価される牛肉の色沢は、牛肉全体を目で見て確認することでランク分けが行われます。与一和牛は、中間(淡すぎず・濃すぎない色沢)であり、最も高いランクが設定された上質な牛肉です。
優れた歩留等級
与一和牛は、可食部の多さを示す指標である「歩留(ぶどまり)等級」も高いランクを示します。
枝肉(牛から、東部や内臓、皮などを取り除いた状態の肉牛)状態で格付けをされ、最終的に食肉部分がどのくらい取れるかという割合を元に、格付けがなされます。
消費者にとってはあまり耳慣れない言葉ではありますが、可食部の割合が高いということは、生産効率が良いことを意味し、取引業者にとっては買い付け基準の目安となる重要な指標のひとつなのです。
生産過程が管理された、高い安全性
与一和牛は、飼養から消費に至るまでの全ての過程を、きちんとしたルールに則り管理された、安全面に配慮された牛肉です。
大きく分けて「トレサビリティ法」と「ポジティブリスト制度」の2つの管理体制があり、各々について以下に解説していきます。
「トレサビリティ法」による追跡管理
生産から商品までの全工程を、きちんと追跡できるように、履歴を残す制度が「トレサビリティ法」です。流通に関わるあらゆる業界で適用されている制度です。
与一和牛は、この制度の元、精肉表示に記載されている「個体識別番号」から、産地や生産者、品種に至るあらゆる情報が分かるように管理されています。偽装問題を無くし、高い品質でお届けするために、徹底した努力と工夫が行われています。
「ポジティブリスト制度」による安全管理
「ポジティブリスト制度」とは、食品の中に残留する農薬や、動物用医薬品及び飼料添加物を対象とする制度で、一定の量を超えて農薬などの残留が認められる食品の販売などを、原則的に禁止するものです。
与一和牛は、この制度が適用されているため、成長ホルモンなども一切使用せずに飼養されています。さらに、放射線セシウムに関する検査も行われており、より高い安全性を目指した牛肉として配慮がなされています。
ヘルシー志向の方に愛される脂質
与一和牛は、オレイン酸やMUFA(一価不飽和脂肪酸)など、身体に良いとされる脂肪酸を多く含んでおり、小さなお子様からご年配の方まで、幅広い世代におすすめできる良質な脂が自慢です。
数値でも証明される上質な脂
東京都食肉市場で、定期的に脂肪酸の検査が行われており、オレイン酸を55%以上、MUFA値も60%以上と、非常に高い数値が示されています。
ダイエット中で体型を気にされる方や、健康志向の方にも、安心してお召し上がりいただけるのが与一和牛の強みです。
身体にうれしいオレイン酸の効能
オレイン酸には様々な働きがあり、よく言われているのが血液中の「悪玉コレステロールの減少」です。血液をサラサラにすることで、健康管理に役立ちます。
さらに、「生活習慣病の予防」にも効果があり、過酸化脂質を抑えるため、若々しい血管を保つことが期待されます。
また、腸に届きやすいオレイン酸は、蠕動運動を促し便秘解消にも効果があります。
オレイン酸は、スキンケア化粧品などにも配合されており、高い保湿効果を誇るため、美肌を目指す方にも大変注目の成分です。
女性の体に大切な脂肪
「脂肪」と言えば嫌なイメージが付きまとい、敵視されがちではありますが、実は肉に含まれる脂肪分には人体にとって欠かすことのできない大切な役割もあります。
例えば、女性ホルモンである「エストロゲン」は、卵巣の脂肪組織から分泌されます。エストロゲンは、女性らしい体つきを作るために必要なものです。さらに、エストロゲンは、動脈硬化や骨粗しょう症を予防する働きもあるため、適度な量の脂肪の摂取は、バランスの良い体を作るためにも重要な意味があるのです。
まとめ
与一和牛の歴史を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
さらりとしたフルーティーな脂質で、老若男女、世代を問わずに美味しく楽しむことができる、体に優しい牛肉である与一和牛。国内最高峰の「A5ランク」を誇るブランド牛として、全国的にも知られています。
安全管理も徹底されており、生産者の顔の見える、安心の牛肉として、様々な取り組みがなされています。私たち消費者の口に入るまでの過程を追跡確認することができ、成長ホルモンも使用せず、放射線セシウムについても検査が行われているため、安心して食卓に並べることができます。
産地である栃木県ではもちろんのこと、通販サイトなどのお取り寄せも多数取り扱いがありますので、ぜひその豊かな味わいをご堪能ください。