日本人の食文化になじみ深い和牛。今回はその中でも屈指のブランド牛として有名な「米沢牛」の歴史について調べてみました。
■明治初期から伝統の、歴史ある和牛
明治時代からという、非常に長い歴史を誇る米沢牛。広まる大きなきっかけとなった出来事がいくつか存在し、キーマンとなった人物から、全国拡大に至るまでの主な軌跡を以下にまとめます。
ーはじまりは、幕末の名藩主「上杉鷹山」の特産品づくりー
幕末の時代、財政難に陥っていた米沢藩において、名藩主と誉れ高い上杉鷹山が特産品づくりの一貫として導入したのが牛の飼育でした。当初は食肉用としてではなく、農作業や運搬などの使役用として扱われていました。その牛が、米沢ならではの豊かな自然と栄養にあふれた環境で育まれるうちに、良質な肉牛へと進化を遂げた背景があります。
ーひとりの英国人教師から、口コミが広がるー
明治4年、山形県の米沢にある「藩校興譲館(現在の米沢興譲館高校)」に、英語人教師として招待されたチャールズ・ヘンリー・ダラス氏が、本来であれば四つ足の動物を食べる文化のなかったこの地で、故郷を懐かしみ和牛を食したことをきっかけに、米沢牛の食用としての歴史が幕を開けます。
そのあまりの美味しさに感動したダラス氏は、任期完了の際、お土産として一頭の米沢牛を持ち帰りました。横浜の居留地で共にその牛肉を味わった人々も、感嘆の声を上げたことがきっかけで、米沢牛の美味しさが話題となりました。
ー関西方面への拡大から、全国へー
ダラス氏の紹介で、横浜の問屋と米沢の家畜商を契約し、本格的に米沢牛を売り出しが始まりました。明治8年には米沢市内に最初の牛肉店が開店され、数多くの牛肉販売店の開業が相次ぎました。
当時の米沢には、牛肉になじみ深い関西方面からの商人が目立ち、そういった商人たちへ米沢牛の「牛鍋」を振る舞う機会が多かったことも影響し、その美味しさが関西への広がり、最終的には全国的な規模に達したのです。
ー米沢牛の質を高める様々な活動が活発化ー
米沢牛の生産技術向上などを目標に、「米沢牛枝肉共励会」や「米沢牛枝肉共進会」といった集まりが開催されたり、安定的な出荷に向け「米沢牛出荷組合」が結成されたり、更なる銘柄確立のために「米沢牛銘柄推進協議会」が発足されたりと、その価値を高めるために様々な活動が行われてきました。
協議会が発足されたことに伴い、米沢牛の統一基準が定められ、平成19年には地域団体商標として「米沢牛」が登録され、一層ブランド価値を明確なものにしています。
■米沢牛として認定される4つの定義
米沢牛には指定された条件が存在し、その定義を満たしたものでなければ名乗ることができません。厳しい審査をクリアした末に、米沢牛購買許可書の取付が行われています。
4種類の定義が存在し、飼育者の居住地や飼育期間が問われたり、肉牛の種類や扱いについても細かく設定されていたり、月齢や肉質などについても具体的な条件が設けられています。
詳しい内容は、「米沢牛銘柄推進協議会」のホームページ(http://www.yonezawagyu.jp/03.html)に記載がありますので、ご参照ください。
■自然の恵みあふれる、米沢牛のふるさと「置賜(おきたま)地方」
山形県の南部に位置する「置賜(おきたま)地方」は、四方を山々に囲まれた盆地にあります。夏は湿気が高く暑さが際立ち、冬はたくさんの雪に覆われる極寒の寒さが特徴です。 独特の気候に恵まれた米沢地区だからこそ実現できる豊かな土地で、 山々から流れ出る湧き水が置賜盆地を潤し、豊かな土壌に仕立て上げ、質の高い米沢牛を育てるのに最適な環境が整うのです。
■独自配合の飼料や徹底した管理体制で、美味しく安全な生産がこだわり
米沢牛は、麦・トウモロコシ・大豆・ふすまなどを原料に、独自の配合飼料で、一頭一頭生産者の愛情を受けて育てられています。
さらに、精肉等に表示されている10桁の管理番号を元に、牛の個体識別情報検索サービスを使って、牛肉の生産者情報や生産履歴、コメントなどを確認できる体制が整えられています。
■日本三大和牛のひとつとして称される
「三大和牛」という呼称は、厳密にはどの3銘柄を指すものか公式な見解は定まっていないものの、「近江牛」「神戸牛」「松阪牛」などと並んで、米沢牛も確実に日本有数のブランド牛として評価されています。その背景には、古くから続く伝統の蓄積があり、主なポイントについて以下に解説していきます。
ーおもてなし料理のための肉ー
明治初期より、その品質の高さを認められ、おもてなし料理のための肉として伝統的に扱われてきた実績があります。現在も、米沢の観光名所では、米沢牛を扱った料理が目玉商品として多数あり、米沢駅では100年以上の歴史を誇る米沢牛駅弁が販売され続けています。観光客をもてなすために、広く消費者の間で親しまれている和牛です。
ー社会的評価が高いー
社会的な評価の高さを表す指標の一つに「取引価格」が挙げられます。平成25~27年度の調査によると、和牛めす枝肉(A4、A5)における「東京都中央卸売市場食肉市場」の平均価格と比べると、米沢牛の取引価格は、2割ほど高いことが明らかになっています。高い品質にふさわしい価格で扱われていることが分かる一例です。
■農林水産省も認める、価値の高さ
米沢牛は、農林水産省が定める「地理的表示(GI)保護制度」により、知的財産として登録され、保護を受けています。「地理的表示(GI)保護制度」とは、地域に存在する伝統的な生産方法と、生産地ならではの気候や風土などが、産品の特性に結びついているものに対して設けられる制度で、米沢牛は平成29年にその第26号として登録されました。
置賜地方ならではの環境と、独自の生産方法で育まれた米沢牛は、地域共有の財産として、国から正式に認められた価値ある産品なのです。
■米沢牛の商標登録
米沢牛は、昭和56年に、山形おきたま農業協同組合によって、登録番号1457084号として商標登録されており、きちんとした流通管理の元、高い品質を保持するブランド牛として、愛されて続けています。
■米沢牛の美味しさの秘訣
日本人の好みに合わせて、きめ細やかな「サシ」が徹底的に重視されています。牛脂ならではの香りや、肉質の柔らかさ、とろけるような味わいを楽しむことができます。
和牛と呼ばれるものは、日本特有の品種であり、「黒毛和種」「日本短角種」「無角和種」「褐色和種」の4種類を指します。その中で、信頼できる生産者の元、安心の管理体制で、厳選された黒毛和種のみが「米沢牛」を名乗ることが許されます。
生産過程での機械化が促進される中、米沢牛は、熟練の職人による牛刀でのスライスが行われており、人の手による長年の経験を活かした技術で商品化されています。
■米沢牛の美味しい食べ方
様々な調理法で楽しむことができる米沢牛。特におすすめの食べ方についてご紹介します。
ー焼肉ー
炭火で豪快に焼くと、美味しさが一層際立ちます。表面が焼けたら粗塩を一振りして、アツアツの美味しさをご堪能ください。
ーしゃぶしゃぶー
お好みの出汁にサッとくぐらせて、ピンク色に染まった肉をほおばると、口の中でとろけるような美味しさを味わうことができます。
ーステーキー
和風の味付けが肉の旨味を引き出します。とろりとした柔らかい食感が楽しめるサイコロステーキもおすすめ。さいの目に切った肉を、一気に強火で焼くことがポイントです。
ーすき焼きー
米沢牛のジュワッとあふれる肉汁を最後の一口まで味わい尽くすことができます。野菜にも旨味がしっかり染みわたり、〆のうどんまで美味しくお召し上がりいただけます。
■まとめ
「米沢牛」 は米沢を中心とする、置賜(おきたま)地方の先人が伝統的に培ってきた、牛への愛情と専門的な技術、そして、置賜ならではの豊かな自然環境が作り上げた産品です。
山形県を代表するブランド牛として、世に送り出すきっかけを作った、米沢藩9代藩主である上杉鷹山や、イギリス人のチャールズ・ヘンリー・ダラス氏の働きかけもあり、今や日本で三大和牛のひとつに称されるほどの人気を博しています。
きめ細やかな霜降りが美しい最高級の脂は絶品で、口に含むととろけるような食感が特徴です。
明治時代より愛され続けてきた伝統の深さを噛みしめながら、ぜひその味わいをご堪能ください。